じゃがらを作る

 2007年の夏に編集した、「夏色雑記町」というwebサイトに掲載された記事を、再掲載いたします。あれから、ざっと10年ほど経ちました。尾島ねぷたまつりは、どんな進化をとげましたか?

〜ジャガラをつくる 今井博久さん〜



 ジャガラ(手振り鉦)の持ち手部分となる房紐を、今井博久さんが一心に編みこんでいく。編みながら、あまりに熱中しすぎて、手の皮がむけてしまうこともある。そんな父親である今井さんの手元を、長男の晴久君がじっと見つめていたかと思うと、やがて自らもとなりに座り込み、房紐を編む練習を始めた。今井さん一家では、こうしてジャガラ作りをしながら、みんなでおしゃべりすることも、よくあるそうだ。
 ジャガラは、ねぷた囃子の中で、拍子を刻む大事な役割を担う。祭りの最中では、太鼓も笛も、その凛とした金属音に助けられながら、息を合わせ、リズムを刻むことができる。しかし、ジャガラは意外と値がはるので、自ら買おう、という気になる人は、実は余りいないのが現状だ。



 今井さんの所属する上州ねぷた会では、平成16年発足当時、なんと会員たちが、鍋のフタでジャガラを製作した。その理由は、初代会長の戸谷剛志さんいわく、「お金が無いから」。当時、祭りの関係者はその発想に驚き、町で話題となり、新聞記事にもなった。この鍋ぶたジャガラのおかげで、それまでよりもたくさんの子どもたちが、祭りへと繰り出しやすくなった。
 しかし、今井さんは、鍋ぶたジャガラから、数多くの人を本物のジャガラへと持ち替えさせた。真鍮のジャガラを自分たちの手で製作することにより、そのコストダウンを実現させたのだ



  平成18年から、千葉の業者を通し、真鍮を円形に加工したものを中国から輸入し始めた。その円形のものに、房紐を通す輪の部分を取り付け、(この作業を今井さんは自社で行っている)房紐を編み込んで完成させる。この房紐の編み込み作業は、会員の人たちや、家族に手伝ってもらうこともある。  このジャガラは、市価の半値で買うことができるという。上州ねぷた会以外にも、尾島ねぷたまつりのお囃子に携わる人たちに、お手ごろ価格で提供している。
 ジャガラは、今までに30個近く製作されたが、その売り上げは、上州ねぷた会の運営費や製作費に回されている。ただ闇雲に安く提供しているわけではない。今井さんのジャガラ製作に、「経営力」のようなものも見て取れる。今井さんは、「資金が無いから何もできない、ではなく、資金がないならどうすればよいか、をそれぞれ考えつつ、行動している」と話す。



 しかし、こうして作られたジャガラの売り上げから、今井さんは一銭も受け取っていないという。 なぜ、無報酬で、しかも休日を裂いてまでここまでやるのだろうか・・・?  今井さんに理由をたずねても、「ジャガラは楽しいから増えればいい」、「青少年の育成のため」、「ボランティアだから」など、ジャガラを作り続ける理由は、なかなかひと言では言い表せない様子。ジャガラには、仲間たち、子どもたち、地域の幸せなど、ひと言では言い表せない、色んな願いが複雑に編みこまれている。 「大工の内田くんだって、暑い、とかいいながら(ねぷたの骨組み作り)をやっているんだから」と、仲間を気遣う。今井さんの、仲間に対する思いは、深い。 チャカチャカチャンチャカ・・・  祭りの夜、熱気が渦巻く中。さまざまな思いが込められたジャガラの音色が、仲間たち、子どもたちの心に凛と響く。



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