ガイア畑での出会い


 太田市新野町にあるNPO法人ガイアの畑に、正さんとカゲ吉が、お邪魔させていただきました。まだ冬の気配が消えきっていない、2月の広々とした新野町にある農地。NPO法人ガイアが耕す畑には、障がい者やその家族、赤ちゃん連れの人など、さまざまな人たちが集っていました。





 この日訪れてみると、売り物になるような作物は、すでに収穫し終えており、畑には少し花が咲き始めたブロッコリーや、小振りな大根のみが残っていました。畑に耕運機をかける前に、ガイアのメンバーはブロッコリーの、食べられる残りの部分を摘み取ったり、大根を抜き取ったりしていました。



 ここに居合わせる人たちは、よく話す人も、物静かな人も明るく、のびのびとした雰囲気。市内の各所から集まってきているのに、まるでご近所付き合い、親戚付き合いか、と感じられるくらい近しい間柄に見えます。一通り収穫をし終えた後、管理事務所でお茶をごちそうになりながらお話をうかがいました。






 2010年11月、NPO法人ガイアが発足し、農地の持ち主と契約し畑を借りて、作物を栽培し始めました。「初めの理事長は橋本建次さん。たくさんの人たちから支援を受けながら、ガイアは起ち上げられました。太田市や農協、不動産会社を経営する友人など、さまざまな人たちが、協力してくださいました」と、現在の理事長である小川紀子さんは語ります。
 ガイアでは、道の駅おおたや太田市役所などで、育てた野菜の直売(不定期)を行い、市内外のたくさんの人たちから好評を得ています。また、ホテル椿山荘東京にも食材として出荷しているなど、その品質は確かなものです。


 小川さんは、ある講演で聞いた『恩送り』という言葉を胸に刻んで活動をしているとのこと。「直接、恩を受けたその人に、恩を返せるとは限らない。別の誰かに恩を送っていくことも大切」試行錯誤しながらも、人々に喜ばれる野菜を生産し提供することで、ガイアはたくさんの人たちに恩を送り続けてきました。



 色んなお話を聞きながら、植付け作業や収穫作業などの風景を撮影した写真も見せていただきました。障がいのある人も、そうでない人も、日本人も、外国人も、皆太陽の下で農作業に一生懸命取り組んでいる姿が、たくさんありました。 「そうそう、写真のこの人、中国から来ているの。今日に限ってなんでいないのよ~」 何だか、とんでもなく遠くの方からも、人が集って来ているんですね…
 楽しそうに、朗らかに語るメンバーたち。群馬の強い日差し、強いからっ風、そうした中での農作業は決して楽ではないはず。それでも、ここにいる人たちや、写真の中にいる人たちは、その辛さを乗り越えるための、さまざまな恵みや知恵、温かさを大地から受け取り、それらを分かち合っているように感じられました。


 

 まるで、映画かドラマか、小説の中に出てくるような、ほんわかと楽しい人たち。…こんな素敵な場所が、ここ太田市にあったんだ、と信じられないような気持ちで数々の写真を見ていると。「この子は去年の7月に、亡くなったんです」と、写真の中にいる一人、山本駿さんを指差し、小川さんは言いました。電車で事故に遭い、命を落とした、とのこと。




 障がい者の山本駿さんは、小川洋平さんと共に、コンビでガイアを盛り上げてきました。山本駿さんは、農作業用一輪車の達人。縦横無尽に一輪車を操り、時々暴走してしまうこともあったとか。
 また、和太鼓やドラムが大好きだったとのことで、ご両親から、演奏した時の写真や映像を見せていただきました。その、堂々とした演奏から、自分が楽しむのはもちろん、聴いている人、見ている人も楽しませよう、という気持ちが全身からほとばしっているようでした。




 突然亡くなられた駿さんに対するご両親や仲間の方たちの思い、失った辛さは、計りしれません。それでも。
 写真や映像から放たれる、駿さんの強いエネルギー。このエネルギーは、たくさんの人と人をつなぎ、たくさんの絆を生み出したのではないか、と。こうして、つながり合えたみんなで輪になって、駿さんとの楽しかった思い出を持ち寄り、語り合う姿を見ていると、駿さんは『これからもみんなの輪の中にあり続ける』そんな風に思えました。
 自分たちも、駿さんに、会ってみたかった。それが叶わなかったのに、なぜだか、出会えたような気がしてしまうのです。皆さんの温かい輪の中にいると。




 「ボランティアの人たち、地域の人たちと楽しくやりたいな。みんなの『居場所』みたいなものができたらいいな」小川さんは、笑顔でそう話します。
 人は、限られた命の中で、心から『仲間』と思える人に、果たしてどれだけ出会えるのでしょう?どれだけの人たちに、『仲間』と心から思ってもらえるのでしょうか?

 そんな風に思いにふけりながら、管理事務所を後にし、外の世界を見回すと。少しずつ、本格的な春が近づいてきて、ガイアの畑を、太陽がほんわかと照らしていました。





 ガイアでは、一緒に作業してくださる障がい者とその家族、ボランティアをお待ちしております。また、10月には太田西ロータリークラブ主催の収穫祭が行われるなど、楽しいイベントもあります!詳しくは、ガイアのFacebookをご覧ください。




ガイアのFacebookへ




取材・撮影 正ちゃん、カゲ吉
前に戻る